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最高裁判所大法廷 昭和26年(あ)2137号 判決 1954年1月20日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人小川契弍の上告趣意第一点について。

憲法一四条は、人格の価値がすべての国民について平等であり、従って、人種、信条、性格、社会的身分又は門地等の差異にもとずいて、国民の政治的、経済的又は社会的関係における基本的な権利義務に関し、あるいは特権を有し、あるいは特別に不利益な待遇を与えられてはならないという大原則を示したものであって、国民各自の年齢、自然的素質、職業、人と人との間の特別な関係等の各事情を考慮して、道徳、正義、合目的性等の要請により、国民がその関係する各個の法律関係において、それぞれの対象の差に従い合理的に異る取扱を受けることまで禁止する趣旨を包含するものでないこと、刑法において尊属親に対する殺人、傷害致死等が一般の場合に比して重く罰されているのは、法が子の親に対する道徳的義務を重要視し、加害者たる卑属の背倫理性を重き犯情としてとくに考慮に入れられたものであって、被害者たる尊属親に対し、尊属なるが故に特別に利益な権利又は待遇を与えてこれを保護せんとする立法趣旨でないこと、従って、刑法二〇五条二項の規定は、憲法一四条に違反しないことは、既に当裁判所大法廷の判例の趣旨とするところであって(昭和二五年一〇月一一日大法廷判決判例集四巻一〇号二〇三七頁以下参照)いまなおこれを変更する必要を認めない。されば、所論憲法一四条違反の主張は採用できない。

次に、論旨は、刑法二〇五条二項の規定は、卑属なるが故に尊属よりは尊重されないという結果になるから憲法一三条の「すべて国民は、個人として尊重される」との条規にも違反する旨主張する。しかし、右刑法の条項は、前述のように卑属の背倫理性を重き犯情としてとくに考慮したものであって、尊属を尊属なるが故に卑属よりも特別に尊重保護せんとした規定ではない。されば、背倫理性を重く処罰する刑法二〇五条二項の刑罰規定を目して憲法一三条に反するとの所論は採用できない。

さらに、所論は、憲法二四条二項にいわゆる「家族」とは、民法改正後の現在においては親族と読みかえるべく、また、同条項にいわゆる「その他の事項」の中には、親子間の殺傷事件に関する処罰事項等をも当然包含されるものであるから、親子間の殺傷事件についても、法律は、個人の尊厳に立脚して制定されなければならず、従って、被害者が尊属たると卑属たるとによって法定刑を区別した刑法二〇五条二項は、憲法二四条二項にも反する旨主張する。しかし、憲法二四条二項は、配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚、その他婚姻及び家族に関する事項に関しては、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、立法されなければならないといっているだけで、所論のごとき親族間の処罰事項等に関する立法まで包含する規定ではない。されば、所論違憲の主張は、独自の見解であって、採用することはできない。

同第二点について。

所論は、量刑の非難であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。また、記録を精査しても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって、同四〇八条に従い主文のとおり判決する。

この判決は、真野裁判官の反対意見(前掲大法廷判決中の同裁判官の反対意見のとおり)を除く外裁判官全員一致の意見によるものである。

(裁判長裁判官 田中耕太郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上 登 裁判官 栗山 茂 裁判官 真野 毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎 裁判官 入江俊郎)

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